上場(IPO)準備を進める上で避けて通れないのが「内部統制」の整備です。しかし、いつから着手すべきか分からず、対応が後手に回ってしまう企業も少なくありません。内部統制は早すぎても遅すぎても非効率やリスクを招く重要なテーマです。
今回は、上場準備において内部統制に取り掛かる最適な時期やスケジュール感、関係者の役割について分かりやすく解説します。
上場準備における「内部統制」の重要性
株式上場(IPO)を目指す企業にとって、内部統制の整備がなぜ不可欠なのか、その重要性と準備期間について解説します。
上場後は内部統制報告書の提出義務がある
上場企業には、金融商品取引法に基づき、投資家保護の観点から「内部統制報告書」の提出が義務付けられています。この報告書は、上場直後の決算期において提出しなければならず、企業の財務報告に係る内部統制の有効性を経営者自らが評価し、報告する必要があります。
そのため、上場前から適切な内部統制体制を構築し、運用実績を積み重ねておくことが求められます。
上場審査の対象項目となる
内部統制の整備状況は、証券取引所による上場審査において最重要項目のひとつとして位置づけられています。審査では、業務プロセスの適切性、リスク管理体制、コンプライアンス体制などが厳格にチェックされます。
内部統制の構築には最短でも2~3年を要するため、上場を計画する段階から余裕をもって着手することが不可欠です。特に、内部統制の実効性を証明するためには一定期間の運用実績が必要となるため、早期の取り組み開始が重要です。
内部統制の基本要素
内部統制は6つの基本要素から構成されており、それぞれが相互に関連しながら企業の健全な経営を支えています。ここでは、要素についてそれぞれ解説します。
統制環境
統制環境は、内部統制の他の基本要素の基礎となる極めて重要な要素です。
企業の基本理念や組織風土といった基盤だけでなく、経営方針や経営戦略、さらには経営者の姿勢、誠実性および倫理観なども含まれます。この統制環境が適切に整備されていなければ、他の要素がいかに優れていても内部統制全体の実効性を確保できません。
経営トップのコンプライアンス意識と、それを組織全体に浸透させる取り組みが不可欠です。
リスクの評価と対応
リスクとは、企業目標の達成を阻害する要因を指します。企業目標を達成する際に影響を与えるすべてのリスクを識別・分析・評価することで、適切なリスク軽減措置を講じられます。
財務リスク、オペレーショナルリスク、コンプライアンスリスクなど、多岐にわたるリスクを体系的に管理する仕組みの構築が求められます。
統制活動
統制活動は、経営者の指示が適切に実行されている状況を確保するために定める方針および手続きです。
承認制度、職務分掌、アクセス制限など、具体的な業務プロセスにおける牽制機能を整備することで、業務の適正性を担保します。
情報と伝達
情報と伝達は、必要な情報が適時に識別・把握・処理され、組織内外および関係者相互に正確に伝えられる仕組みを指します。財務情報や業務情報が経営層に適切に報告される体制、従業員への経営方針の周知、外部のステークホルダーへの適切な情報開示など、多層的なコミュニケーション体制の構築が求められます。
特に上場企業においては、投資家への適時開示義務があるため、情報伝達の迅速性と正確性が極めて重要です。内部通報制度の整備も、この要素における重要な取り組みのひとつです。
モニタリング
モニタリングは、内部統制の有効性を継続的に検討・評価する手続きを指します。整備された内部統制は、モニタリングを通じて継続的に監視・評価・是正されることで、その実効性が維持されます。
日常的モニタリングと独立的評価の両面から、内部統制の運用状況を定期的にチェックし、不備が発見された場合には速やかに改善措置を講じる体制が不可欠です。内部監査部門による監査や、経営層による定期的なレビューがこれに該当します。
ITへの対応
ITへの対応は、IT環境への対応と、IT利用および統制の2つの項目から構成されます。企業目標達成のため、あらかじめ適切な方針を定め、業務の実施においてITへの適切な対応が求められます。
システムのアクセス管理、データバックアップ体制、サイバーセキュリティ対策など、IT統制の整備は現代の企業経営において必須の要素です。
上場準備における内部統制の進め方
内部統制の整備を効果的に進めるためには、適切なスケジュール設定と各関係者の役割分担が重要です。ここでは、具体的な進め方について解説します。
▼上場準備全体の失敗を防ぐポイントはこちら
「上場(IPO)準備に失敗する理由とは?成功ポイントを紹介」
スケジュールの目安
グロース市場への上場を目指すベンチャー企業の場合(プライム市場やスタンダード市場を目指す場合は、より早い段階からの準備が求められます)、直前々期の後半から直前期の初頭にかけて、内部統制の整備に着手するケースが一般的です。
これは、上場準備の初期段階(直前々期よりも前)からフローチャート、業務記述書、RCM(リスク・コントロール・マトリクス)などの文書を作成してしまうと、事業展開に伴う組織変更のたびに見直しが必要となり、非効率な作業が発生するためです。
そのため、事業内容や組織構造がある程度固まった段階で、上場後の内部統制報告書の提出を見据えた本格的な準備を進めることが望ましいといえます。
早すぎる着手は無駄な工数を生み、遅すぎる着手は上場スケジュールに支障をきたすため、適切なタイミングの見極めが不可欠です。
関係者の役割と責任
内部統制の整備・運用には、組織内の各階層が明確な役割と責任を担います。
主に以下のような役割分担となります。
| 対象者・部門 | 役割・責任 |
| 経営者 | 会社の代表として有価証券報告書を提出する立場にあり、開示書類の信頼性に係る最終的な責任を有する |
| 取締役会 | 内部統制の整備・運用に係る基本方針を決定し、経営者による内部統制の整備・運用に対して監督責任を有する |
| 監査役・監査役会・監査等委員会または監査委員会 | 独立した立場から、内部統制の整備・運用状況を監視、検証する役割と責任を有する |
| 内部監査人 | 内部統制の基本的要素のひとつであるモニタリングの一環として、内部統制の整備・運用状況を検討、評価し、必要に応じてその改善を促す職務を担う |
| 組織内のそのほかの者 | 自らの業務との関連において、日常業務の中で自らの権限と責任の範囲内で、有効な内部統制の整備・運用に関して一定の役割と責任を有する |
経営層から現場の従業員まで、全社的な取り組みとして内部統制を推進する体制の構築が不可欠です。
まとめ
上場準備において内部統制の整備は、最重要課題のひとつです。統制環境からITへの対応まで6つの基本要素を理解し、適切なスケジュールでの全社的な体制の構築が、上場成功への近道となります。
あわせて重要になるのが、個々の経営判断が、どのような検討プロセスを経て行われたのかを説明できる状態を整えておくことです。オフィス移転やレイアウト変更といった環境整備も、事業成長や組織体制、コストの妥当性を踏まえて判断される上場準備期における重要な経営テーマのひとつに位置づけられます。
MACオフィスの「WEO®マネジメント」では、こうした環境投資に関する選択肢整理や検討プロセスの可視化を通じて、経営判断の合理性を整理する支援を行っています。その結果として、内部統制における意思決定プロセスの透明性・説明可能性を高めたい企業様にも活用いただいています。