利益を最大化するためには、コストを「固定費」と「変動費」に分け、それぞれの視点から収益構造を把握することが重要です。特に、売上高から変動費を差し引いた「限界利益」とその比率である「限界利益率」は、価格設定や経営判断に欠かせない指標となります。
今回は、限界利益の基本的な計算方法から、固定費・変動費との関係、さらには収益力を高めるための具体的な施策まで詳しく解説します。
限界利益算定の前提となる費用区分(変動費・固定費)
限界利益を正しく算定するには、まず事業にかかるコストを「変動費」と「固定費」に分ける手法(固変分解)への理解が前提となります。
売上高に比例して増減する変動費と、売上高に関わらず一定額発生する固定費を区分することで、売上高から変動費を差し引いた「限界利益」を算出することが可能になります。この限界利益こそが、固定費を回収し、最終的な利益を生み出すための原資です。以下では、変動費と固定費それぞれの特徴について詳しく見ていきましょう。
変動費とは
変動費は、生産量や販売量、売上高に応じて変動する費用を指します。代表的な例は、原材料費、仕入れ費、外注費、運送費などです。変動費の高い商品やサービスは、利益が薄くなる傾向があります。
固定費とは
固定費は、生産量や販売量、売上高に影響されない費用です。例えば、人件費やオフィス賃料、設備の減価償却費、リース費用、保険料などがあります。企業にとっては、状況にかかわらず、継続的に発生する出費となります。
ちなみに、固定費と変動費に絶対的な区分はありません。例えば人件費の場合、正社員の賃金は固定費に分類されますが、変動する要素のある繁忙期の残業代、アルバイトの賃金などは変動費とも捉えられます。両者を区分する基準は売上に連動するか否かです。
限界利益とは
限界利益とは、商品やサービスを販売することで得られる利益を指します。事業が十分な利益を得られているかどうかを見極めるための指標として、価格設定や事業継続の判断にも活用されています。
限界利益の計算方法
限界利益は、商品やサービスの売上高から変動費を差し引くことで求められます。計算方法は下記の通りです。
限界利益=売上高-変動費
ここでは、1個1,000円の商品Aを例に限界利益を算出してみましょう。商品Aの原材料費が1個につき500円発生する場合、1,000円-500円=500円が、商品Aの1個あたりの限界利益です。
商品Aが10個売れれば、500円×10個=5,000円と限界利益も多くなっていきます。仮に変動費が600円に上がれば、商品1個あたりの限界利益は400円に減少します。
限界利益率とは
限界利益率とは、売上高から変動費(仕入れ原価や荷造運賃など)を差し引いた限界利益が、売上高の何%を占めるかを示す指標です。この数値が高いほど、少ない売上でも固定費を効率良く回収できる「儲けやすい事業体質」を意味します。
限界利益率は、損益分岐点の分析や製品ごとの収益性比較においても欠かせない指標です。限界利益率の計算方法について、詳しく確認していきましょう。
限界利益率の計算方法
限界利益率は、次の計算式で求められます。
限界利益率(%) = 限界利益 ÷ 売上高 × 100
先述の例(変動費500円・売上1,000円の商品A)で計算すると、500円 ÷ 1,000円 × 100 = 50%となります。仮に仕入れ改善などで変動費が250円に下がり、限界利益が750円になった場合は、750円 ÷ 1,000円 × 100 = 75%と、限界利益率が上昇します。
なお、限界利益率の平均値は各業界でさまざまです。例えば、小売業では40~50%、建設業では15~30%が目安とされています。自社の数値を業界平均と比較することで、収益改善の余地を見極めることができます。
「限界利益率の向上」と「固定費の削減」は打ち手が異なる
限界利益率の向上と固定費の削減は、どちらも最終的な営業利益を増やすというゴールは同じですが、対象とする費用と、アプローチする時間軸・業務プロセスが根本的に異なります。簡単にいうと、前者は「売れば売るほど儲かる体質にする(効率化)」、後者は「売れなくても赤字が出にくい体質にする(筋肉質化)」という手法です。
管理会計上の視点がまったく異なるため、打ち手も大きく異なります。理想的な利益改善のためには、バランス良く両方に取り組むことが重要です。両者それぞれの施策について詳しく見ていきましょう。
限界利益率の向上に効く施策例
限界利益率の向上とは、1単位あたりの粗利を増やすことで、売上が上がるほど利益が大きく伸びる事業体質をつくることです。
主な打ち手
・値上げ
商品の付加価値を高め、価格を上げる施策です。変動費を据え置いたまま単価を引き上げれば、限界利益を直接的に増やすことができます。ただし、顧客の納得感を高めるための品質改善や価値訴求が不可欠です。
・変動費の削減
原材料の仕入れ単価を見直す、仕入先を変更するなどにより原材料費を抑えます。変動費が下がれば、同じ売上高でも手元に残る利益が増えます。
・製品ミックスの変更
限界利益率の低い商品から、高い商品へ販売比率を移すことです。複数の商品・サービスを扱う場合は、高収益商品の販売比率を高めることで会社全体の収益力を底上げできます。
固定費の削減に効く施策例
固定費の削減は、販売・管理コストを減らして安定した黒字体質をつくるアプローチです。売上の多寡にかかわらず発生する固定費を抑えることで、損益分岐点を引き下げる効果があります。
主な打ち手
・人件費の見直し
残業削減や人員配置の最適化により、固定的に発生する人件費を見直すことができます。ただし、削減の際には従業員のモチベーションや事業の生産性への影響を慎重に検討することが重要です。
・広告費の最適化
成果の出ていない広告を停止し、費用対効果の高い施策へ予算を集中させることで、広告費の無駄を省くことができます。
・オフィスコスト削減
固定費の中でも特に削減効果が大きいのがオフィス賃料です。オフィスコストの削減には、大きく2つのアプローチがあります。
1つ目は、オフィスの縮小移転・部分返却による賃料の圧縮です。 出社率の低下により使われていないスペースが多い企業では、実態に合わせてオフィス面積を縮小することで、月々の賃料を大きく抑えることができます。
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2つ目は、契約更新時の賃料値上げへの事前対策です。 近年、賃貸借契約の更新時に賃料が1.3〜1.5倍に値上がりするケースが増加しています。現状維持や増床を検討している場合でも、更新タイミングに向けて早期から準備を進めることで、賃料上昇幅を抑えることが可能です。
限界利益率を高める方法
限界利益率を高め、収益力をアップさせるには、大きく3つの方法が考えられます。
単価を上げる
限界利益率を高める方法のひとつが、商品やサービスの値上げです。変動費を据え置いたまま単価を上げれば、値上げ分が売上につながることから、限界利益の改善が見込めます。
例えば、販売数を増やして売上を伸ばそうと値引きをしているケースでは、値上げによる価格の適正化で、収益が改善されることも少なくありません。過度な値引きが限界利益を下げ、収益を低下させている場合もあるからです。
ただし、値上げは販売数の減少に直結するおそれがあるため、慎重な判断が必要です。商品やサービスの質向上が伴っていないと判断されれば、顧客離れや顧客満足度の低下を引き起こすリスクもあります。
このような状況を踏まえ、限界利益率の向上を目的とした単価アップには、短期的な利益追求だけでなく、長期的な収益も見越した価格設定や品質管理が求められます。
販売数を増やす
複数の商品やサービスを取り扱う事業では、限界利益率が高い商品やサービスの販売数を増やすことで、事業全体の限界利益が拡大しやすくなります。
販売数を上げる対策として、既存顧客のリピート率向上や新規顧客の開拓が考えられます。下記は、その際に役立つ顧客満足度の向上や認知度アップのための施策です。
・高付加価値の商品やサービスの提供
・応対品質の向上
・クロスセルによる顧客1人あたりの購入点数の増加
・SNSやWeb広告による商品やサービスのPR
・顧客の属性に合わせたキャンペーン
新規顧客からリピーターになる割合が定期的に増えていけば、販売数や売上の向上も望めます。
変動費を下げる
売上を維持しつつ変動費のみを削減することは、それほど容易ではありません。なぜなら変動費は、そもそも売上高に比例して増減するからです。とはいえ、見直すべきポイントはあります。
まずは、過去の仕入れ数や販売データなどの分析から在庫量を適正化し、原材料のロスを改善することです。商品の製造に必要な量を正確に見積もり、適切な在庫管理を行うことで無駄を省きます。
さらに、仕入れ先の変更や仕入れルートの開拓により、原材料のコストカットを実現できれば、変動費の抑制につながります。
加えて、物流コストの削減も効果的な方法です。物流コストの最適化策として、コスト効率の良い輸送方法の選定、ルートプランニング、契約条件の見直しなどが考えられます。
業務によっては、変動費を占める外注費と内製にかかる費用の割合を見直すのも、ひとつの方法です。ただし、コストだけでなく、品質を維持できるか、ノウハウを保有したいコア領域に該当する業務かなどの観点から十分な検討が求められます。
まとめ
収益を最大化し、企業の持続的な成長を促進するために、限界利益や限界利益率を適切に管理することが求められます。限界利益率を高めるには、価格の適正化をはじめ、高限界利益率の商品やサービスの販売強化、変動費の削減などの方法が有効です。
経営状態の改善という観点では、無理のない範囲で行う固定費の見直しも大きな効果をもたらします。その方法のひとつとして、固定費の一定割合を占めるオフィス賃料の削減があげられます。契約更新時の大幅な値上げを事前対策によって抑制することも、固定費の改善につながる有効なアプローチです。
更新時の賃料値上げの現状については、以下の記事で解説していますので、ぜひご覧ください。「オフィスの賃料値上げは拒否できる?受け入れ・拒否の判断ポイントと事前準備ステップ」