オフィスの賃料値上げは、結論からいうと拒否すること自体は可能です。賃料の改定は貸主・借主双方の合意が原則であり、貸主が一方的に決定することはできません。しかし、値上げ通知が届いてから対策を始めたのでは、交渉の準備も移転の検討も間に合わないケースがほとんどです。通知が来る前の早い段階から準備を進めることが、経営上の最善策です。
今回は、賃料値上げを拒否できる法的根拠と、受け入れ・拒否(交渉)を判断するための事前準備ステップについて解説します。
オフィスの賃料値上げの現状
近年、都市部のオフィス賃料は上昇傾向が続いており、更新時に想定外の値上げを求められるケースが増えています。最新データをもとに現状を把握しておきましょう。
出典:三幸エステート「相場データ:東京都」
都心5区の大規模ビル・平均賃料は4か月連続上昇
東京都心5区の大規模ビル(200坪以上)における2026年3月時点の募集賃料(共益費込)は、1坪あたり32,202円と4か月連続での上昇を記録しています。
対前年同月比では2024年2月から25か月連続のプラスを維持しており、直近4か月は前年比+9%前後という高水準の伸びが続いています。
空室率は歴史的な低水準
規模別の空室率は、大規模ビル(200坪以上)が1.10%、大型ビル(100〜200坪)が1.98%、中型ビル(50〜100坪)が3.01%で、都心5区全体の平均空室率はわずか1.73%にとどまっています。
大規模ビルの82.5%が満室稼働の状態にあり、募集在庫面積もコロナ禍のピーク時(約71万坪)からほぼ3分の1にまで激減しました。この需給の極度な逼迫が、賃料上昇を後押しする構造的な要因です。
継続賃料でも値上げが常態化
新規契約時だけでなく、継続中の賃貸でもオーナーが賃料条件の引き上げを求める動きが広がっています。
コロナ禍で賃料が一時的に低下した時期の契約が更新時期を迎えており、契約更新時に1坪あたり1万円超の大幅値上げとなるケースも出ています。
オフィスの賃料値上げは拒否できる?
オフィスの賃料値上げを「拒否する」こと自体は可能です。これは、賃料改定が双方の合意を原則とするため、貸主が一方的に値上げを強制できないという法的な根拠によるものです。
ただし、契約形態によって対応の選択肢や緊急度が大きく異なります。以下で確認しておきましょう。
普通借家契約の場合
多くのオフィス賃貸契約は普通借家契約に該当します。借地借家法により借主の権利が強く守られており、合意なしの値上げは認められていません。値上げ通知は更新の6か月前に届くことが多いものの、納得できない場合は拒否してそのまま入居を継続できます。
値上げを拒否したことを理由に、貸主が一方的に契約解除や立ち退きを要求することは法律で禁じられています。また、交渉がまとまるまでこれまでの賃料を支払い続けていれば「滞納」とはなりません。
定期借家契約の場合
定期借家契約は、契約期間が明確に決まっており、更新のない契約タイプです。値上げを拒否し続けると、貸主が次回の「再契約」を拒む可能性があります。
実質的に「値上げを受け入れるか、退去するか」という選択を迫られるケースが多く、普通借家契約よりも対応の緊急度が高くなります。
オフィス賃料値上げの受け入れ・拒否は2年前から検討・準備を!
更新の6か月前に値上げ通知が届いてから動き出したのでは、オフィス移転には通常4〜5か月を要するため、準備がまったく間に合いません。
移転する場合は、更新日の2年前ごろから周辺・物件の相場情報の収集や費用試算を開始する必要があり、交渉においても事前に市場データや代替案を準備しておくことが求められます。通知が来る前の早い段階から計画的に行動することが、最善の経営判断につながります。
オフィス賃料の値上げの受け入れ・拒否(交渉)の準備ステップ
値上げの受け入れ・拒否(交渉)のいずれにおいても、適切な判断を行うためには事前のデータ収集と計画立案が不可欠です。以下では、更新の2年前から始めておくべき準備ステップを解説します。
更新の2年前|現状把握・相場の確認
賃料値上げへの対応を判断する上で、まずは現状を正確に把握しましょう。具体的には、以下の3つの観点から情報を整理します。
現契約内容の確認
賃貸借契約書を確認し、賃料の改定方法(時期・条件・方式)を把握しましょう。普通借家か定期借家かで判断できます。
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項目
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普通借家契約の場合
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定期借家契約の場合
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時期
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更新時や、契約期間中でも見直し条項があればそのタイミングで改定されることがあります。
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原則として契約期間満了時の再契約や、契約更新に相当する場面で見直します。
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条件
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租税公課の増減、不動産価格の変動、近隣相場の変化などで、賃料が不相当になった場合に増減請求の対象になります。
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契約書に賃料改定条項があるか、逆に賃料不改定条項があるかを確認します。
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方式
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まずは当事者の協議・交渉で決め、合意できれば覚書や家賃変更合意書を作成します。
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再契約時に市場相場を踏まえて新賃料を提示し、合意できた場合に改定します。
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賃貸借契約書のそもそもの定義やチェックポイントは以下の記事もご覧ください。
「オフィス賃料値上げへの備えとして知っておきたい「賃貸借契約書」」
同物件の現在の募集賃料を調べる
入居している物件が現在どのくらいの賃料で出されているかは、現行賃料の妥当性を判断する重要な指標です。
公開中の募集条件に「諸条件交渉可」と記載されている場合は、交渉の余地があるサインです。
賃料の妥当性をチェックするポイントについては、以下の記事も参考になります。
「急な家賃値上げに慌てないために……知っておきたい適正賃料とは」
入居時の経済状況との比較
入居時よりも景気が悪化していないか、賃料水準に乖離がないかを確認します。
交渉を進める場合は感覚論ではなく、具体的な統計データや市況資料を根拠として示すことが重要です。
更新の1年以上前|受け入れ・拒否(交渉)・移転の判断
現状把握が完了したら、次は具体的なシナリオを立てて判断の準備を進めます。
受け入れ・拒否(交渉)かのシナリオ整理
更新料の金額・値上げ後の賃料水準・交渉余地の有無を踏まえて、「交渉して現行条件を維持する」「値上げを受け入れる」「移転を検討する」という3つのシナリオを比較・検討します。この段階での判断が、その後の経営コストに大きく影響します。
【拒否(交渉)の場合】許容ライン・代替案の検討
「賃料は据え置く代わりに共益費を下げる」「賃料アップに見合う設備改善を求める」「他物件も検討していると伝える」といった代替案を事前に用意しておきましょう。
オーナー側も空室リスクを避けたいため、合理的な根拠と代替案があれば交渉の余地は十分にあります。
移転プロジェクトの検討
現行オフィスで環境整備やレイアウト変更の必要性を感じているなら、移転を前向きに検討する良い機会です。
将来の従業員の増減も見越した上で、移転プロジェクトを早期に発足させることが重要です。
オフィス移転を検討する際は、以下の記事もご覧ください。
「オフィス移転のメリット・デメリットを具体的に解説!事例も紹介」
「オフィス移転を検討している方必見|移転の流れや費用、成功事例まで徹底解説」
オフィスの賃料値上げに関する経営判断をプロに相談するなら
賃料値上げは多くの企業にとって避けられない課題であり、通知が届いてからでは移転準備も交渉も間に合わないケースがほとんどです。受け入れ(残留)・拒否(交渉)・移転のいずれにおいても、納得のいく経営判断を行うためには、要請が来る前からプロのサポートを受けることが重要です。
MACオフィスの「WEO®マネジメント」では、賃料値上げを想定した移転・更新延長の相場感やトータルコストの比較など、オフィス戦略の意思決定を総合的にサポートしています。賃料値上げ要請に対し、現賃料の値下げや据え置きを実現した成功事例もございます。賃料問題でお悩みの際は、ぜひお気軽にご相談ください。
>>MACオフィスへのご相談はこちら
▼事例は以下のページから
「WEO®マネジメントご成約事例 – ビルグレードアップ・ダウンサイジング移転」
まとめ
オフィスの賃料値上げを拒否すること自体は法的に可能ですが、契約形態(普通借家・定期借家)によって対応の選択肢と緊急度が異なります。また、都心部では賃料上昇と空室率の低水準が続いており、継続賃料での値上げも常態化しています。
通知が届いてからでは手遅れになるケースが多く、更新の2年前からデータ収集・費用試算を始めることが重要です。自社に最適なオフィス戦略の判断に迷ったら、早めにプロに相談しましょう。